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豚さんの気持ち、知っていますか?~アニマルウェルフェアの現状と課題~

2025年2月22日に豚のアニマルウェルフェア(AW)についての学習会を開催しました。講師は北海道大学大学院農学研究院の清水池義治准教授です。参加者は20名でした。

お話の概要をお知らせします。

家畜を大切に健康的に飼うことは経済的な利益を生み出すので、日本の畜産農家は意識していなくてもAWに配慮した飼い方をしてはいる。AWの原則の5つの自由で言えば「飢えと渇きからの自由」「不快からの自由」「痛み、傷、病気からの自由」「恐怖や悲しみからの自由」は比較的満たされているが、動物が本来やりたい行動、例えば鶏が止まり木に止まるとか、豚が探索行動をするなど「正常な行動発現の自由」は十分な空間確保が必要になることもあり、実現が難しい。家畜の飼い方については動物愛護管理法や家畜伝染病予防法などで一般的な基準が示されてはいたが、2023年農水省が「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理指針」を作成し、公表した。その中で将来的に実施が推奨される事項として「豚は社会的な動物で群で生活することを好むから繁殖雌豚はなるべく群で飼う」とある。ストール飼育では自由に動けないので、群飼育にした方が「正常行動の発現」ができる。繁殖雌豚の飼育方法には一長一短があるものの、豚の行動が制限されるストール飼いよりは群飼育や放牧の方が行動の多様性は増す。養豚においてAWの認知度は8割ほどまで上がっているが、繁殖雌豚の群飼育を実施している所は1割に満たない。(平成30年度)

群飼育で母豚が動ける範囲は広くなるが、豚は社会的序列を作る動物なので闘争が起き流産など生産性が低下することもある。また母豚がAW的に飼育されても子豚の肉質に影響がないので付加価値を付けにくい。販売先がAWを求める場合はそのコストを付加価値として実現できる。

道内で放牧養豚をしている2つの事業者を紹介する。1つはマンガリッツア種という放牧に適した品種を導入している。肥育期間は通常の豚の2~3倍と長いけれど、販売価格も100g当たり2400円と高級レストランのメイン食材として設定している。もう1つは「どろぶた」で知られる飼育から精肉、加工まで一貫経営している事業者。精肉では放牧やAW配慮で差別化し、首都圏の外資系ホテル・飲食店への販売が増えている。

畜産現場では飼料の高騰や感染症への対応、従業員不足やコストに見合わない小売価格など問題が山積している。本来すべての家畜がAWで飼育されるべきと思うが、AWで価格が高くなれば買えない消費者もいる。AWに対応できない生産者と家畜はそのままでいいのか?国の規制とコスト負担がポイントで、家畜の「正常行動発現の自由」を重視するEUにはAWが前提の所得補償制度がある。日本では「正常行動の発現の自由」に関する規制は弱くAWにかかるコストは消費者が負担する。また日本と欧米では価値観が異なる部分もある。日本は動物の命を重視するので、命を奪う前提の家畜に対する関心は薄い。欧米では家畜の感覚を重視するのでAWにも関心が強いと思われる。

「AWの最低基準を国で作りその分のコストを保障するためには国民の理解が必要」「コスト増や付加価値化できなくても海外と商売している所は群飼育を意識している」「感染症対策で畜産現場が消費者から見えなくなってきている」など意見交換がされました。

アンケートでは以下の回答が寄せられました。

「清水池先生の講演は2回目ですがとても分かりやすかったです。AWについて全く無知で参加しましたが、自分たちが食べている家畜において重視する観点の違いなど考えることがたくさんあると感じました」

「実際に豚を育てていて、AWについてあまり知る機会が無かったのですごく勉強になりました。現場の人間にももっと知る機会があれば良いなぁと思いました」

「消費者は今以上に飼育方法や生産現場の理解を深めていく必要があると感じました。価格や付加価値優先になっている今必要なことだと感じました」

「一般の方の考え方がわかり大変参考になりました。多角的視点を持つと考え方も見え方も変わります」

「新たな価値を持った生産が始まったことは良いかと思う。マンガリッツァ豚、シュベビッシュ・ハル種だと放牧する生産方式での価値が高まることは良いのか、ただしお金持ちだけの利用?どろぶたの性質から豚は一定どろとの関わりが必要なのか?」

「難しい問題だということがよくわかりました」

「AWに対する消費者意識が日本と欧米で差があるという点について我がこととして考えさせられました。関心が低いのではなく重視する価値観が異なるという点にはなるほどと思いました。やはり最終的に命をいただくとしても、それまでは命の過程を大事にするべきだと思います。これが欧米の価値観であるとすれば日本では少数派、日々なかなかつらいものがあります」

「普段あまり聞けない家畜について、特に多数飼育の現状を知り勉強になりました」

「食べる立場からしか考えていなかったのでAW、新しい学びとなりました。ありがとうございました」

「AWの5つの自由の中で「適切な量と質のエサの提供」というのがありましたが、遺伝子組み換えのエサの提供について、国などの規制などはないのでしょうか?」