なるほど!theアニマルウェルフェア~世界の動きと日本の現状~

講 師 瀬尾 哲也氏(帯広畜産大学畜産学部准教授)

 10月29日、帯広畜産大学畜産学部の瀬尾哲也准教授から表題のテーマで話を聞きました。Zoomを使ったオンライン学習会で参加者16名のうち8名は道外からの参加でした。

 始めに酪農の厳しい現状を知らされました。2016年のバター不足で国は畜産クラスターに補助金を出して増産を進めたが、コロナ禍などで生乳が余るようになった。飼料価格は値上がりしているのに乳価は上がらず、その上収入源のオス子牛の売り渡し価格がF1は4割にホルスタインは1/10に減っていて餌代にもならず、酪農家の経営を圧迫している。輸入の濃厚飼料に頼らず牧草で牛を育てる農家もいるが、牛は乳量増やすように品種改良されているので牧草だけでは難しいと思われる。酪農は関わる業種が多く牛を飼えなくなれば酪農界全体が大変な状況になる。乳製品は生産調整が難しいので消費者として牛乳などが値上がりしても買い支えてほしい。

 アニマルウェルフェア(AW)はまず動物のくらしをよくするという視点から考える。それによって品質が良くなり生産性が向上するなど農家にもメリットがあり、おいしさや安全性という消費者へのメリットにもつながる。AWを投資の対象基準とするBBFAW(Business Benchmark on Farm Animal Welfare)では日本の企業は最低評価である。EUでは鶏卵に平飼い、フリーレンジ、ケージなどの飼い方に基づく表示がある。アメリカもケージを禁止しようとしている。日本はAWの取り組みが遅れているが、例えばEUのようにバタリーケージを禁止したら卵の供給がなくなる恐れもある。
 AWは飼育方式だけでなく飼育管理全般が適切かどうか見ていくべき。つなぎ飼いでも快適に飼われている所もあるし、放牧でも炎暑対策できていないと牛はつらい。牛は1日に60㎏ほど糞尿をするので掃除が行き届かないと滑って転んで安楽殺ということもある。安全性を考えれば除角も必要と思うが、ストレスないように行うべき。と畜場でも牛が動かないとしっぽを持ったり、たたいたりして移動させることがあるが、段差をなくす、照明を付ける、曲がり角を曲線にするなど施設を改善することで牛がスムーズに進むようになる。家畜の立場から考えることが大切。生産性より持続性を考えて、もっと農業への関心を持ってほしいと話を閉じました。

参加者からの質疑応答では

  • オーストラリアのゲップ税←メタンガスを減らす研究が進んでいる
  • 家畜のゲノム編集←乳量増やす方向にいっている
  • 再生産可能な乳価←1リットル10円上がれば大丈夫と思う
  • EUでの卵の価格差←高くて2~3倍。EUはケージフリーが当たり前なので数十円の差しかない
  • 流通へのアプローチ←生産現場を見てほしい

 参加者からは「家畜のアニマルウェルフェアを日本で進めていくにはまだまだ課題が沢山あるのだなということが分かりました。今まで家畜についてあまり触れたりする機会がない人にはどのようにして現状を伝え、理解してもらえば良いのか、生産する人と消費する人の声が互いに身近になるようにするにはどうすればよいのかということを学習会が終わったあとに疑問に感じ、学習会の際に質問すればよかったと少し後悔しました。私のような人にぜひ今回の学習会のような内容を知ってほしいなと思いました」「牛たちをはじめ、ファームアニマルたちの暮らしの良いこと、何が悪いのか、どこが問題なのかを消費者の皆様方に、知ってほしい、伝えたい、伝えなければならない」「物価が上がり生産者も消費者も苦しい中で、それでもアニマルウェルフェアの意義を訴えていくためには、情報を更新し常に自分に問い続けることが必要だと思いました」「ケージフリーで安全な飼育を定着させるために生産者が再生産できる条件をサポートする消費者(ファン)を増やすことが必要」などの声がアンケートで寄せられました。

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