あにふく(アニマルウェルフェア)学習会 2017年9月3日

『聞いて・考えて・話して・深めよう!~肉になる家畜の育つ環境について~』
豚の育つ環境について学びました

 2017年度1回目のアニマルウェルフェア学習会を9月3日に開催しました。3月まで北海道農政部畜産振興課にいらっしゃって、現在は北海道農政部生産振興局技術普及課植物防疫担当の関俊一氏から「快適性に配慮した豚の飼養管理」についてお話しいただきました。この30年ほどで豚飼養戸数は1/10に減り、1戸当たりの飼養頭数は約9倍になり規模拡大が進んでいること、生鮮肉、豚肉の消費が増えていること、豚肉の自給率が51.5%(平成27年)であることなどを農林水産省の畜産統計等を使って解説された後で「アニマルウェルフェアの考え方に対応した豚の飼養管理指針」について説明いただきました。

北海道農政部 関俊一さん

北海道農政部 関俊一さん

「指針」では、豚の健康状態や飼料、水、換気など観察を少なくとも1日1回は行うこと、毎日記録をつけることを基本に、豚は好奇心が強い反面、周囲の環境変化に敏感なため不要なストレスを与えたり、手荒な扱いを避けるよう説いています。施設を清潔に保つこと、汚染されていない水や飼料を与えること、湿度や温度に気を配ることなども書かれています。また、分娩豚や泌乳中の豚は立ったり横になったりできる施設で飼うよう考慮するとなっています。「EUの基準はより厳しいので国内基準を満たせば肉を輸出できると思ってもEUではねつけられるのでは」という意見が会場からありました。

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指針では 新生子豚の歯切りについては母豚の乳房を傷つけたり、母豚が急に立ち上がることで子豚が圧死したりする事故を防止する手段の1つとして生後7日以内に行うよう書かれています。また尾かじりは飼養スペースの拡大やストレスの軽減で発生を減らせるという意見もあるが、尾かじりを防止する有効な手段として断尾を生後7日以内に行うとしています。この点についても「EUでは断尾、歯切りは禁止されているので生後7日以内に『するもの』だと生産者に考えられてしまうのはまずいのでは」という質問には「世界基準を取り入れるためにはコストや設備投資が必要になる。最終的には消費者の選択にかかる。」と回答がありました。消費者が選ぶためには表示が必要です。放牧など手間がかかりコスト高になる部分を消費者が理解することも必要でしょう。

株式会社アレフ農業研究部分析センターの安西みゆきさんからは「えこりん村の養豚の取り組み~豚が豚らしく暮らすための環境づくり」についてお話を伺いました。

株式会社アレフ農業研究部分析センター 安西みゆきさん

株式会社アレフ農業研究部分析センター 安西みゆきさん

農業法人えこりん村株式会社では羊980頭を65haの草地で牧草飼育している。豚600頭は10haで放牧飼育している。羊飼育の経験から豚を導入したが豚は好奇心が強く破壊力もあり、羊に通用する柵が豚には掘り返されたりと、試行錯誤しながら取り組んできた。繁殖雄豚は200㎏超で牙も鋭いため5~6頭を舎飼いしている。母豚は小屋もない森の中で過ごす子育て舎は子豚の逃げ場所と壁際にバーを付け子豚が圧死しないよう工夫している。グループ子育てにもチャレンジしているが、他の豚の子にも授乳するなどの姿が見られる。牧草ロールを与えると自分でほぐして寝床を作っている。性成熟した方がおいしいと教わり245日(約8か月)130㎏まで肥育している。肥育豚は小屋への出入りは自由だが、冬でも外で雪煙を上げて走り回る。その姿から、また脂身が粉雪のようにサラサラということで「こな雪とんとん」というブランド名を付けた。出荷するときはエサで体重計に呼び寄せて130㎏の子豚だけより分ける。飼料は普通の餌。去勢は生後7日以内に麻酔なしでスタッフがしている。オスの頭数を少なめにするため人工授精もしているが、妊娠率は90%に近付いたが生まれる頭数は10頭まで届かないこともある(一般は妊娠率90%で13頭ほど生まれる)。豚飼育について先生からは「アニマルウェルフェア」という言葉でなく「フリーレンジ」で豚らしい暮らしができる環境を整えるように教わった。アニマルウェルフェアについてはまだ途上と感じている。羊飼育はニュージーランドから、豚飼育はEUから学んでいて、日本での「飼養管理指針」は初めて見た。チェックシートは無理のない内容で少し頑張れば満たせそうな基準と思われる。消費者のニーズは生産者にはとても大きく、羊はJAS有機の草で育てているがシステム的に表示ができないので評価されない。豚は賢くて人を見分け、好きな人と嫌いな人で態度が違う。放牧で病気少なく呼吸器系の病気はほとんどない。

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映像を交えて質問に答えながらえこりん村の豚の飼育方法がよくわかるお話でした。

フリートークの中では「表示がないのでアニマルウェルフェアのものかどうかがわからない」「ホルスタインを減らして高く売れる黒毛和牛を増やしているからそのうちバターやチーズが不足すると思われる」「消費者から生産者へメッセージを送る」「『一頭買い』というシステムは生産者にとっては売りやすい」など話されました。

アンケートでは

「なぜ国際的な基準と日本の基準は統一することが難しいのか。消費者と生産者の考え方をどこで折り合いをつけるのか対話が必要と感じました。」「豚肉の話はとても楽しかったです。ゲストの2人のお話は分かりやすかった!!」

「えこりん村の安西さんの話が楽しかったです。スーパーの売り場ではこういう育て方をしたお肉ですと沢山表示しておくと読んで買う人も増えると思います。」

「普通の豚は断尾されていることを初めて知りました。えこりん村の取り組みは面白かったです。理想的で素晴らしいと思いました。こな雪とんとん買いたいと思います。」

「深く考えさせられる学習会でした。豚が豚らしく飼育環境を整えてあげ管理されて配慮されています。消費者も買うときにやはり「アニマルウェルフェアで」など表示がされていると関心を持って購入すると思います。消費者も勉強しないといけないと思いました。」

「豚を食することは多いのにどのように飼育されているか全然知らなかったのでとても勉強になりました。えこりん村さんのお話は豚がイキイキと生活している様子がよく伝わってきました。消費者として生産者の皆さんがどのような想いでどのような手間をかけて生産しておられるのかを知ることが大切だと思いました。」などの感想が寄せられました。

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