食の自給フォーラム 2010

「今、農業が続けられない~守ろう私たちの食と農~」報告

2010 チラシ日時;22年2月20日
会場;佐藤水産文化ホール(札幌市)

「今、農業が続けられない~守ろう私たちの食と農~」は、酪農学園大学環境システム学部中原准一教授、農事組合法人駒谷農場駒谷信幸氏、NPO法人北海道食の自給ネットワーク大熊久美子事務局長の三氏による前半の基調講演。後半は会場からの意見や質問を盛り込みながらの鼎談が行われた。
――講演要旨――「中原准一氏」
北海道農業の自給率は200%。農家はそれだけの充足感を持っているか、経営規模はEU国と同程度だがオーストラリア、ヨーロッパの生産者は所得補償という制度により生活が保護されている。また、ヨーロッパは農作物の栽培には厳しい気候環境のため家畜を食料としてきた長い歴史がある。農家には家畜がおり自前で餌を作らねばならなかった。戦後北海道にアメリカ産乳牛が導入されたが餌の自給に至らず、日本は輸入飼料に依存する畜産農業となった。これからの農業はお米や飼料米を生かし国産飼料を考えコスト減を視野に入れていく必要がある。
「駒谷信幸氏」
一般的農家は約187円/時間と極めて低賃金。これでは労働意欲が湧くはずがない。若者も4軒に1軒程度で65歳以上が働き手である。日本と欧米では農業政策(特に補助金)に大きな違いがある。ヨーロッパ諸国は、農産物の生産者価格の8割が補償され、生産者は残り2割以上の価格販売で利益を得られる。米国では、5割の補償である。大規模経営のため主要農産物は、輸出用の戦略物資として位置づけている。一方日本は、農家の生活維持価格で農産物販売システムのため、高い価格設定でなかなか売れず経営は厳しい。結果農業をやめざるを得ないのが大きな要因だ。自給率をアップするには、国民に食べてもらわなくてはならない。
戸別補償制度は国産農産物を安く消費者に提供でき、販売促進につながり農家も生産意欲が湧き、農業に専念できると思う。
「大熊久美子氏」
最近の家庭では手料理が少なくなり、中食・外食等の簡単メニュー依存傾向が大きい。働く母親が増えて生活変化が大きな要因だろう。お腹が空いたらコンビニで、と子供にお金を渡す親も多くなってきている。おせち料理は7割の家庭で食べているが、パンやサンドイッチ、コーヒー等おせち以外の食べ物で済ます家が約2割。まさに日本の伝統料理を作らない家庭が増えてきている。輸入ギョーザ中毒や食品の産地偽装の問題が発生した時、食の安全を求め、地産地消の動きが強まった。種々の問題が起きると自給率アップの声が強まり、人は自衛策として国産品を購入する割合が高まっていた。近頃、不況の影響で消費者は、安い商品や低価格路線の中食産業の利用が増えている。原材料の大部分は安い輸入品である。中食や外食に依存している食生活を改善していかないと自給率はアップしない。
2010鼎談①9546――鼎談――
大熊:自給率を上げるためには、農家が農業を続けられるような農業政策や農業のあり方が必要だと思うが、所得補償で「農業を続けて生きたい」「農業をしよう」と思う人が増えるのだろうか。
駒谷:私は可能だと思います。直接払いをきちんとすれば、農家も皆さんと同じような所得に近づく訳です。今、農業をやめる人たちは、農業が嫌いなわけではない。農業では食べていけないのです。日本の農産物は品質が良く、安全・安心といわれているが価格が高くて輸出できない。価格を直接払いで下がると輸出も可能になるだろう。それと家畜の飼料の問題もある。今の採卵鶏は米国の輸入とうもろこしや小麦を与えないと卵を産まない。牛も何十年もかけ品種改良されてきて輸入飼料の餌でしか育たないようになってしまった。
大熊:戦後、子供たちに小麦とミルクの食生活をさせたら、将来日本はアメリカの巨大市場なるという思惑があったと同じように、畜産の世界も輸入飼料でなければ成り立たないような日本にされてしまったのですね。所得補償が8割もあると農家の生産意欲が低下するのではないかと危惧する声もあるが・・・
中原:スイスという国は、「家畜なくして農業なし」といわれるくらい4000年の有畜農業の歴史がある。農家は、・・(・・畜)の農地があり、家畜や家屋や財産がある中産階級の人が社会の中にしっかり存在することが「社会が安定する」という考え方です。小資産家の農業者は大事だという思いが、国全体で共有されている。農家が安定してこそ社会が安定する。所得補償の実施は農家が安定した農産物を作り、消費者に安く提供できる価格帯になれば自給率も上がるのです。
大熊:所得補償を8割まですると、生産物の価格をそれほど上乗せしなくとも農家は生活できる。農産物も低価格で流通できる。そうすると消費者は国産品を安い価格で購入できるので、私たちの税金で所得補償しても安い食べ物が手に入るのだから私たちにとってもプラスになるということですね。
最後に農業を良くし、守っていくためにそれぞれのお立場で一言おねがいして鼎談を終ります。
駒谷:生産者に税金を使って直接払い(所得補償)というと莫大な予算が必要と思われがちだが、官公庁の公益法人(400)や全農やホクレンの関連会社(290)を見直し簡素化するとそれほど大きな予算でなくてもできる。
中原:人口540万のデンマークでも農林省や農業関係組織が一丸となって豚肉、ミルクを輸出している。それで生き残らなければならない国だから戦略は一致している。自給率200%の北海道は農協、行政、消費者が一体となって政策を見極めていく必要がある。我々は解答を持っているのです。
大熊:最終的に買って食べるのは私たち消費者です。それは自給率の向上に結びつき、生産者を守ることにもなっていくと思います。本気で自給率を上げ農業を守り食の安全を守るのであれば、そうできるような政治を生むように私たちが選んでいくことと食べ方を選んでいくこと変えていけると思いますので是非やって行きたいと思います。

 

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