食の自給フォーラム 2002
「崩壊する食~若者の食生活の危険に迫る~」
2002 年 2 月 16 日 (土) 、食の自給フォーラム 2002 が札幌市教育文化会館において開催された。今期のフォーラムは若年層の食生活がテーマ。二人の講師による講演と大学生を中心とした食生活のアンケートによる調査報告、そして会場からの質問〓意見を交えたパネルディスカッションという三つの構成により進められた。講師には北海道栄養士会学校健康教育栄養士協議会会長、山際睦子氏と札幌医科大学産婦人科講師、藤井美穂氏。山際氏は小学校の学校給食を通して見える家庭の食生活の実態と問題点について、藤井氏は食に関わる産婦人科領域での問題点をスライドを使って講演された。調査報告は札幌大学経済学部、木村匡希氏。アンケート結果を OHP を使用して報告された。
- 山際 睦子 氏
- 現在、食生活に関するさまざまな問題が指摘されている。片寄った栄養の摂取、欠食率の増加、加工食品への依存、ダイエット志向、孤個食 (一人で食べる。一人ずつ別なものを食べる) など。これらは生活習慣病など健康への悪い影響が懸念される。学校給食は栄養バランスの取れた食事であり、また本来家庭に課せられていた望ましい食習慣の形成、好ましい人間関係を作るなどの教育をしている。
- 最近の給食の現場では以下のような子供たちが見られる。味の濃いものに慣れている子、八宝菜や混ぜごはんなどいくつかの食材が混ざったものは食べない子、食の細い子、白いご飯・和食を好まない子。これらは家庭での加工食品の依存や三度の食事をきちんと取っていない事などが影響と考えられる。そしてこうした食生活は微量栄養素の不足による味覚障害や不定愁訴につながっている。また十才くらいから始まる極度のダイエット志向からくる骨粗しょう症も深刻である。このような実態をふまえ、子供たちの食の改善に向けているが、プライバシーの問題から指導に限度があり、なかなか成果が上がらないのが現状。学校だけではなく家庭の協力が必要である。
- 藤井 美穂 氏
- 食を通して維持される健康には四つの項目が考えられる。
- 一つめは十分な食事の摂取。ダイエットやストレスから来る急激な体重の減少が起こると体重減少性無月経が発症する。これは重症になると死の危険も伴う。最近では太っていることでいじめのターゲットとなった不登校児も外来を訪れるなど深刻な摂食障害もある。またそれによる骨密度の低下も問題である。
- 二つめはバランスの取れた食事を取ること。アンバランスな食事は胎児に悪影響を与え、特に糖尿病患者の妊娠では奇形率が高くなる。また、ビタミン類はバランス良く摂取することが大切である。過剰摂取、また逆に欠乏は、神経系の閉鎖不全や貧血、子宮内胎児発育遅延、妊娠中毒症などさまざまな疾病につながる。
- 三つめは安全な食品を食べること。ダイオキシンの影響は内分泌だけではなく免疫機能、脳機能の撹乱作用がある。産婦人科領域だけでも発癌性、免疫機能低下、甲状腺機能低下、催奇形性、流産・早産の増加、子宮内膜症の発症が出ている。また母乳への影響も懸念されている。
- 四つめは食事でのコミュニケーションをとること。家族関係が大切である。
- 木村 匡希 氏
- 札幌大学学生を中心としたアンケート調査を行った。内容は一週間の朝食や夕食の回数、調理時間、味噌汁を飲む回数と作り方、持ち帰り弁当やハンバーガー店の利用頻度など合計十二項目を作成。その結果、大学生の食事回数の少なさや、その分おやつを食べて空腹を満たしたり、サプリメントを利用して栄養をおぎなっている現状がある事が分かった。また一週間カップめんを食べ続けて入院した大学生もいた。
- 今回の調査では同じ大学生の中でも特に単身者が外食やインスタント食品への依存率が高く、食生活の乱れが目立つ結果となった。
パネルディスカッション
コーディネーターに当会事務局長の大熊久美子氏。パネラーに前出の三氏。生産者の三田村雅人氏が会場からの質問・意見を取りまとめた形で進められた。
- 大熊
- ここ四十年ほどで食は大きく変貌したが、その時代背景は。またそれにより体格の向上や疾病が現れるなどの功罪があったと思われるが、それについてはどうか。
- 山際
- 高度成長時代からインスタント食品が出始め、その頃から生活リズムが変わり食生活も変わってきた。
- 藤井
- 氾濫する食は功に結びついていない。罪と考える。
- 木村
- 大学生はインスタント食品に添加物などの問題を感じているが、手間と経済を優先し食べ続けているのが現状。
- 藤井
- 保存料のリンにより骨からカルシュームが流出する。塩分は肝臓に悪影響。食物の体への影響を理解する事が大切。
- 大熊
- 食の崩壊の例は。
- 山際
- 手作り弁当が極度に少ない。運動会ではコンビニ弁当や出前をとる例もある。また、手作りの基準も昔とは違う。
- 三田村
- ダイオキシンの危険の伴う母乳について。 (会場)
- 藤井
- 人工乳にはダイオキシン以外にも添加物という問題がある。コミュニケーションも考えると母乳が良いと思う。
- 三田村
- 給食現場での指導とアレルギーの現状について。 (会場)
- 山際
- 学年別の指導をしている。個別指導は相談を受けたときのみ。アレルギーは相当数おり、年々増えている。
- 大熊
- 現代の食の一番の問題点は。
- 藤井
- 食の崩壊は家庭の崩壊。家庭を見直す必要がある。
- 山際
- 個の尊重のしすぎが個食化につながる。また、商業ベースにのせられる食環境の見直しが必要。
- 三田村
- 食と農の関係をみんなで論議するべき。
- 大熊
- サプリメント (栄養補助剤) についてはどうか。
- 山際
- 身体への蓄積が食品とサプリメントとは違う。サプリメントは過剰障害の可能性があり、むやみに使うべきではない。
- 大熊
- 今後どういう食を目指すべきか。豊かな食とは。
- 木村
- 身近で取れた自然に近いものが豊かな食。若い人の意識改革を。
- 藤井
- 食を通したコミュニケーションを復活するべき。
- 山際
- 本物の味を子供のときから覚えさせる。バランスの良い三度の食事をきちっととって生活リズムを作ることが大切。
参加者は一六八名。学生など若い人たちの参加も多く、「崩壊する食」というテーマへの関心の高さがうかがえた。フォーラム終了後に集められたアンケートでは、「もっと話を聞きたかった。」「この内容を他の人にも伝えたい。」「自分自身できることはないか」など多くの参加者から積極的な感想が寄せられた。