食の自給フォーラム 2001

遺伝子組み換え食品 ~最新情報~

2001 年 2 月 17 日 (土) 、札幌市教育文化会館講堂において北海道食の自給ネットワーク主催による「食の自給フォーラム」が開催された。前半は遺伝子組み換えとは何かから最新の情報を盛り込みながらの科学ジャーナリスト天笠啓祐氏の講演。後半は、長沼町メノ・ビレッジのエップ・レイモンドさんから生産者として報告発言があり、その後、コーディネーターの生活クラブ生活協同組合理事長伊藤牧子氏が事前に会場から集めた質問をまとめ、天笠氏と対談を行った。 150 人を超す参加者はメモを取りながら熱心に聞き入った。

講演;天笠啓祐氏 「遺伝子組み換え食品・技術」とは

自然界の法則、例えば人間から人間が誕生するように生命の基本的な法則である種の壁がある。この「種の壁」を越えて他の生物の遺伝子を取り込むことを遺伝子組み換えという。血液を凍らせないたんぱく質を持つ「ヒラメ」の遺伝子を作物に導入し、寒冷に強い作物を作る実験も進められている。このように技術的には画期的なものであるが、実際には生態系に与える影響、食品への安全性に疑問が残る。遺伝子組み換えに使われる情報遺伝子には、すべての細胞の中で強く働きつづける細菌のウイルスが使われている。問題は食品として人間の体内に入り込むことである。

現在、様々な食品として食卓に上がっているのがダイズ、トウモロコシ、ワタ、ナタネ、ジャガイモ (加工食品として) の 5 作物である。自給率の低い日本では、輸入に頼らざるを得ない作物である。これらの大半は、除草剤耐性作物と殺虫性作物である。アメリカ、カナダのように企業化された広大な農地では労働力の省力化とコストダウンを目指した生産農家向けの作物と言える。生産国ではほとんどが家畜の飼料用として作付けされているが、輸入大国の日本においては味噌、醤油、豆腐、食用油等に使われ、安全性が確立されないまま食卓にのぼっている。又、日本の主食である米でも遺伝子組み換えイネの開発競争が激しくなってきている。モンサント社が主導権を持ち愛知県農業試験所でラウンドアップ耐性イネの「祭り晴」、日本酒などに適する低グルテリンイネは日本たばこ産業との合弁会社で開発が進んでいるように、公的機関が支えている事にも問題がある。アメリカでは除草剤耐性コシヒカリまで開発されている。安価な米の直接輸入、在来種までも脅かす遺伝子組み換え種子の輸入は、後継者難の日本にとって農業の中心である稲作の壊滅的打撃ともなりうる。これらの種子、米は外国企業中心に開発しているのである。

遺伝子組み換え食品の表示の問題点

ヨーロッパでは「疑わしきは排除する」食への安全性から遺伝子組み換え作物はほとんど作付けされていないのが現状である。アメリカにおいても安全性への疑問や、環境への影響を危惧する消費者運動が広がってきている。表示の義務化は 1998 年ヨーロッパで始まった。益虫の死亡率の異常から作物の環境への影響、実験ラットの内臓異常などによる食品の安全性への疑問視が広がっている。日本には 2000 年より JAS 法を改定した表示が始まった。大豆、トウモロコシ、ジャガイモ、ナタネ、綿実のみが対象農産物であるが、消費者にとって曖昧で判り難い表示になっている。

  • 「使用・不使用・不分別」の 3 段階表示。アメリカからは組み換え・非組み換えの混載輸出のため作物使用食品の不使用表示はありえない。
  • 検証できない食品は表示不要。
  • 主原料の上位三品目重量 5%以上のみ表示。
  • 不可抗力による混入率の甘受。など問題が多い。
  • 消費者は安全性に疑問がある食品の素材を知り、「選択できる」権利を得なければならないが、今できる最良の「遺伝子組み換え食品」を避ける方法は 1 、国産 100%作物 2 、有機農産物表示 3 、こだわりの産直運動・生協参加 4 、遺伝子組み換え食品代替品を購入することだろう。

対談;伊藤牧子氏/ 天笠啓祐氏

伊藤
遺伝子組み換え稲に現されるように、栄養面など消費者にメリットのある遺伝子組み換え食品の第 2 世代についてどう考えるか。
天笠
除草剤耐性・殺虫性の作物など、消費者メリットの無いものが第 1 世代、栄養価の高いものなどメリットのあるものが第 2 世代である。どちらも種の壁を越えることが問題。その作物にとって必要のない遺伝子情報を加え無理に働かせている。この無理なしくみが問題であるので第 1 世代も第 2 世代も同じ。基本的に品種改良とは根本的に違うというところを押さえるべき。
伊藤
安全性の評価指針について。
天笠
4 月から法律の規制となり、厳しくはなる。しかし安全性評価の中身は変わっていない事が問題である。
伊藤
遺伝子組え換え作物はコストダウンになるか。また肥料についての安全性はどうか。
天笠
コストダウンの効果はあるが、遺伝子組み換え反対運動の逆風により収入は減っているのが現状。肥料に使われる油粕や家畜飼料には遺伝子組み換え作物は入っている。安全性は現在、テストを始めたところであり、まったくわからない。またこれまで影響の出にくい実験法をしているという問題もある。
伊藤
遺伝子組み換えの綿についての情報は。
天笠
綿については安全性評価・指針、また規制もなにもない。組み換えられた遺伝子が作る綿の蛋白質がどのように影響するのかはまったくの未知数である。
伊藤
綿以外にはどうか。
天笠
花と樹木が開発されている。他に日本では認められていないものとしてアメリカで作付けされている南瓜、パパイヤがある。
伊藤
食糧危機を救う、また有害物質を吸収する植物などの食用以外の遺伝子組み換えについてはどうか。また遺伝子組み換えは 100%駄目か。
天笠
安全であれば画期的な事は確か。しかし、プラス面もあればマイナス面も必ずある事を押さえるべき。また、人工的植物である事は否めない。
伊藤
遺伝子組み換えの研究と開発は縮小されているか。日本企業が力を入れている理由は。
天笠
先ほどのエップさんの報告にもあったように世紀グリーンフロンティア計画・一昨年から始まった国家バイオテクノロジー戦略など国は総力を挙げて遺伝子組み換え作物の開発に邁進している。現在はゲノム解析を中心に研究している。これはエップさんが最後に紹介した種会社の社長の言葉のように、農業にとってのソフトウェア~種~を押さえる事が目的。農業部門は今は縮小されているが将来的に拡大の道をたどっている。
会場からの質問
蛋白質の残らない油の中の遺伝子組み換え問題は。
天笠
油の中に不純物として蛋白質は残る。アレルギーの多くはこの不純物が原因。完全に分解されているわけではない。検証出来ないから表示させないという現状に対して申し入れをしている。

以上、たくさんの質問・意見が会場から寄せられた。最後に天笠氏より、「主食である稲の遺伝子組み換えはなんとしても阻止したい、反対を強めるべきである。」との言葉を頂いた。それを受け、遺伝子組み換えをいらない、食べない、作らせないの運動を進めていきましょう、と伊藤氏がまとめ、フォーラムは終了した。

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