食の自給フォーラム 2007

「警鐘!子どもたちが危ない-食事が決めるこどもの未来-」

2月17日(土)、札幌市の佐藤水産文化ホールにおいて、130名の参加者を集めて「食の自給フォーラム2007」が開催された。今回は昨年に引き続き「食育」をテーマに、第一部では医療・報道・教育の各分野からの出演者に、現場における食の実態や子どもたちの現状について報告してもらい、第二部では鼎談形式で問題点を掘り下げ、今後の解決策について意見が交わされた。

《基調報告》

●学校給食の取材から ~毎日新聞北海道支社 報道部編集委員 千々部 一好氏

食育に関する取材の中から、学校給食の話をしたい。取材をしてみると、今の給食はおいしさ、栄養バランス、見た目もすばらしく、昔の私のイメージは大きく変わった。
例えば、アレルギー対策。札幌市内のある小学校では、アレルギーを持つ子どもの給食の中にアレルゲンが混入しないよう、調理室に張り紙をして区分けをしていた。また厚真町では、一般の食事とアレルギーの子どもの食事をメニューで差別せぬよう、献立が卵焼きの場合は、アレルギーの子どもにはかぼちゃを素材に卵焼き風の食品(コピー食)を作り、見た目が変わらないように配慮していた。子どもたちのアレルギー体質の多さに驚い
たと同時に、給食での対応にはとても感心した。
食材へのこだわりもあり、置戸町では給食に使う調味料は味噌などほとんど自家製で、完熟トマトでピューレを作ったりと地場産食材を積極的に使っていた。また、カレーも市販のルーを使用せず18種ほどのスパイスを使うなど本格的で、子どもたちにも好評だった。
最近では給食費滞納の問題があるが、このような給食の取り組みに対する保護者の理解があれば、もう少し是正されると思う。「飽食の時代」といわれて久しいが、「崩食」(食の崩壊)や「放食」(自由放任、好き嫌い容認)といわれる食の現状に危機感を持っている。

●アレルギー治療の現場から ~渡辺一彦小児科医院 院長 渡辺 一彦氏

印象深い症例を報告するが、生後2~3ヶ月の赤ちゃんが重症のアトピー性皮膚炎で来院した。母親とともに食事療法で回復したが、1歳8ヶ月でりんご(果物)アレルギーになった。りんごの摂取をやめた半月後に今度は白樺花粉症を発症し、口腔アレルギーと診断された。これは日本で最年少の発症例。このアレルギーは、5年ほど前までは学童以上にならないと見られない症例だったが、最近は発症が若齢化してきている。20歳以上の若い世代でも、アレルギー体質を持っている人が増えている。
アレルギーにも色々あるが、スギ花粉症や白樺花粉症などは即時型(すぐ症状が表れる)と言われ、アトピー性皮膚炎などは非即時型(ゆっくり型)と言われている。アトピーは、北海道では4ヶ月齢の乳児の19%が発症しており、全国一の割合。原因の9割以上が何らかの食物アレルギーと関連を持っている。さらに、最近のアレルギーは発生数の増加だけでなく弱齢化が進み、軽症で推移するが治り難くなっている。
また、噛み合せも問題となっており、高校生の8割は噛み合せが悪く、その主な原因は軟らかい物ばかりを食べて噛む回数が少なくなっているから。頭痛、肩こりなどの「不定愁訴」も噛み合せを直すとほとんど解消される。

●高校生の食生活について ~天使大学看護栄養学部栄養学科 助手 百々瀬いづみ氏

高校生の年齢は、乳幼児期の食事の影響が出る時期であり、高校時代の食が将来の食生活の基礎となる。また、小中学生と違い給食がないのも大きな特徴。これらに注目し高校生の食についてアンケート調査した。
食事の皿数では、朝食・夕食ともに平均二皿(ご飯とおかず)で、特に夕食ではチャーハン、カレーライスなどの一皿料理が多い。また、朝食は「お茶かジュース」「サプリメントのみ」、夕食は「インスタントラーメンのみ」「スティックパンと牛乳」など栄養バランスの良くない食事例が目に付いた。また昼食では、弁当などバランスの取れている割合は4割で、他は麺類、おにぎり、パンなどで済ませている。また、「朝食をとらない」は1割で、「週に1回以上欠食」も5割いるなど、欠食率は高校生から高くなる傾向にある。朝食をとることは体のバランスを保ち、さらに心の栄養としても大事。
自分で調理できる食事としては、ほとんどがラーメンや目玉焼きくらいであり、家庭科での教育が十分できないということもあるが、家庭の問題もあると思う。子どもの時から簡単な調理をさせたり、食事の後片付けなど家事の手伝いをさせることも必要。

《鼎談》

【千々部】食物アレルギー増加の原因は?

【渡 辺】よく分かっていないが、本州では山間部より都会の方がスギ花粉症が多い。これはディーゼル車の排気微粒子との関連が分かっている。その他にも過度な加工処理をされた食品、食品添加物、農薬、環境汚染が関係していると言われている。アレルギー症は遺伝ではなく、環境の変化により増加したためではないか。ぜん息は現在10数%だが、戦前は0.1%だった。アトピー性皮膚炎も同じことが言える。

【百々瀬】食事リズムの乱れも関連している。アレルギーの原因は腸の乱れではないかと言われている。食品添加物や農薬、食物繊維の摂取不足などが腸に損傷を与える原因となっている。

【渡 辺】アトピー患者を3,000人ほど診ているが、患者の中には薬として乳酸菌製剤を与えたところ、すっかり治った人もいる。最近、アメリカの日本人医師が牛乳・乳製品は腸にとって良くないと言っているが。

【百々瀬】それは根拠に乏しいと思う。ヨーグルトは腸に非常に良いし、牛乳を飲むことで便通が良くなる。もちろん乳製品のみではなく、バランスのよい朝食をとることが大事。

【千々部】噛み合わせの問題では、噛む回数は時代を経るにしたがって減少している。卑弥呼の時代では1回の食事に4,000回、源頼朝の時代では2,600回、徳川時代では1,400回、現代では600回と言われている。食事の時間が短いことや、軟食化がその原因。

【百々瀬】逆に、しっかり噛むと太らない。たくさん噛むと脳が満足し、食べる量が減る。また、軟らかいものには砂糖や油が多い。最近、栄養標準が変わり、離乳食では果物を与えない方が良いと言われている。甘いものを与え続けると習慣化するので、お茶などが望ましい。

【渡 辺】生後5ヶ月までは母乳だけで良い。ただ、母乳を与えられた乳児の方がアレルゲンが移行してアトピーになる例が多い。口の中が渇くドライマウスの症状も、良く噛まないことで唾液の分泌が阻害されるために起こる。唾液は活性酸素や発癌物質を抑制する。

【千々部】今は食物の旬がなくなりつつある。旬を意識した連地連作の野菜などをとることも必要。暗くなる話題が続いたが、では今後どうしたら良いか。

【渡 辺】まずは大豆を食べること。地球温暖化の原因の一つは肉食。蛋白源としては大豆で十分。

【百々瀬】一日一品豆類を食べる習慣を。野菜が多くとれる味噌汁の良さを見直すこと。また農水省が出している食事バランスガイドを参考に食の見直しをすると良い。そして高校生から自分で食事が作れるようになってほしい。

【千々部】その点では給食に学ぶことは大きい。栄養バランスも良いし、母親の皆さんももっと給食に興味を示してほしいと思う。

(報告 理事 鈴木久士・野名辰二)

 

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