食の自給フォーラム 2003

「検証! 遺伝子組み換え作物」

2003 年 2 月 15 日、 札幌市中央区のエスタ内「プラニスホール」において北海道食の自給ネットワーク主催のフォーラムが開催された。今回のテーマは「遺伝子組み換え」。第一部は「現状と基礎知識」と題し、ジャーナリストの天笠啓祐氏と名古屋大学理学部助手の河田昌東氏による対談、第二部は前出の二氏に由仁町で農業を営む三田村雅人氏 (北海道食の自給ネットワーク代表) と生活クラブ生活協同組合理事の泉屋めぐみ氏が加わり「もし北海道で作付が行われたら」をテーマにパネルディスカッションが行われた。

第 1 部:対談「現状と基礎知識」

天笠
現在、出回っている遺伝子組み換え作物は、ナタネ・大豆・トウモロコシ・ワタで、主な生産国はアメリカ・アルゼンチン・カナダ・中国である。これらは食用油やマヨネーズ、飼料などに加工されている。
河田
遺伝子組み換えを推進しているのは、穀物で世界をコントロールしたいと考えるアメリカであるが、遺伝子を組み換えるのは同じ作物の交配だけではその効果に限界があるからである。例えば、除草剤で死なないバクテリアの遺伝子を作物に取り込むと、除草剤を大量に撒いても作物は枯れないといった効果がある。除草剤メーカーにとっては遺伝子組み換えの種と除草剤をセットで売ることができるメリットがある。
天笠
日本における遺伝子組み換えの問題に食品表示に関することがある。日本では遺伝子組み換え表示義務のある食品が豆腐や納豆などに限られ、その表示対象は原材料の使用重量の上位三品までである。さらに、組み換え作物の混入率が五%未満だと表示義務がない。このため、表示義務のない食用油に遺伝子組み換え作物が使われたり、また表示義務があるものでも五%未満の割合で組み換え作物が使われていることがある。それに対し、ヨーロッパでは全ての食品が遺伝子組み換え表示の対象となっており、微量でも表示しなければならない。
河田
遺伝子組み換え作物は収量が増加すると言われているが、大豆では約五%の収量の減少が見られ、また除草剤を撒いても枯れない雑草が増加したことで農薬の使用量が増えた。そして、最近の研究では、組み換え大豆を食べた人の腸内から組み換え作物と同じ DNA が検出されたり、タンパク質中のアミノ酸配列がアレルギー物質の物と六個以上同じだとアレルギーを発症する恐れがあることが判明した。
天笠
また、花粉が飛来することで他の作物の遺伝子を汚染するといった環境への悪影響も考えられる。

第 2 部:パネルディスカッション「もし北海道で作付が行われたら」

三田村
私は、農業を知りたい人を対象に体験農園を開いているが、それは作るだけの農業に疑問を感じるようになったからだ。また、現在の農家は種を採取できるにもかかわらず、 99%は買っている。
泉屋
私達生活クラブ生協は、国産や北海道産の物を食べたいとの思いから九十六年の輸入認可から遺伝子組み換え作物への反対運動を行ってきた。
三田村
農業の現場は技術に対する関心は高いが、食品に関する議論はない。遺伝子組み換えに関する議論が始まっていないことに危機感を感じる。
河田
もし、遺伝子組み換え作物が作付されたら、その遺伝子が人間の手を離れて勝手に拡散するという懸念がある。
天笠
遺伝子組み換え作物の生産が盛んなアメリカでも消費者の反対運動は行われているが、推進派の力が圧倒的に強い。
三田村
自分は生産者でもあるが、作っていない物は他から買っている。生産者も消費者であるという意識を持ち、歩み寄らなければこの問題は解決できないと思う。
泉屋
遺伝子組み換えの問題は、食品としての安全性ということの他に、地球環境に負荷がかかることも認識しなければならないと思う。
河田
海外では有機栽培のナタネの花粉が遺伝子組み換えの物に汚染されたことで裁判になった。また、それ以前には遺伝子組み換え種子を販売するモンサント社が、ある農家を特許侵害で訴えた。その農家はモンサント社から買った大豆の種を 1 年間植えたが、その翌年はモンサント社の種を蒔いていないのに組み換え遺伝子を持った大豆が育った。農家はモンサントの種を採取しておらず、他の畑から花粉が飛来したことも考えられるが、実際に育った以上モンサント社の特許を侵害したとの理由で敗訴となった。
三田村
農業には「土作り」という言葉があるが、昔からの知恵で土をよみがえらせ、良い野菜を作ることはできる。また、北海道では優良な農地があるにもかかわらず、後継者がいないために耕作放棄地となり農業が崩壊しつつあるといった問題がある。
泉屋
私は体に良い物を食べたいと思っているが、体に良い物とはそれなりの作り方の他に、それなりの環境の中でできた物だと思う。環境を汚染しないためにはゴミを減らし、空や土はつながっているのだという認識を多くの人に伝えたい。
天笠
海外では遺伝子組み換え作物が作付されたことで農薬使用量の増加や森林伐採、農薬による環境汚染が広がったが、北海道でも同じような影響が考えられる。そして、我々の周りに遺伝子組み換え作物が増えたのは、自給率が低いからである。遺伝子組み換え作物が登場したことにより安全で信頼の高い食品をどうやって食生活の中心にするか、これからはどういう食にこだわっていけばいいのかという問題が突きつけられているのだと思う。

今回のフォーラムは、 300 名を越える参加者があり、道内各地はおろか東京・千葉・埼玉・名古屋、遠くは九州から来られた人もいた。また、フォーラム中に回収した意見や質問も多岐に渡り、遺伝子組み換え作物に対する関心の高さを伺わせた。

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