食の自給フォーラム 2006

「食べることは生きること~学校で畑で地域で、子どもたちとつくる食育活動~」

事務局 松本 啓祐

2 月 18 日(土)、札幌市教育文化会館講堂において、 130 名の参加者を集めての「食の自給フォーラム 2006 」が開催されました。本報告では、学校給食を核とした先駆的な食育に取り組む南国市・西森教育長の講演と、各パネリストの実践報告をふまえた意見を掲載します。

講演の要旨

「自分たちで作り上げる給食 ~高知県南国市の取り組み~ 」

高知県南国市教育委員会 西森善郎教育長

校長時代に「学校給食を含めた食をもっと身近なところにもっていきたい」と給食に地元米を使おうとしましたが、当時は「前例がない」という制度の厚い壁に阻まれました。平成 8 年に現市長の初当選と同時に教育長に就任してからは、「戦後の与えられてきた学校給食から、地域とともに自分たちで作り上げていく給食」づくりを進めてきました。

この 10 年を振り返ると、超えなければならない 2 つのハードルがあったといえます。一つは、委託炊飯から自校炊飯への切り替えによる地元炊飯業者との交渉。もう一つは県の学校給食会との対立です。炊飯業者は市が契約破棄すれば廃業必至のため厳しい交渉でしたが、最後には「西森さんの考える給食が(次の)時代かもしれない」と納得してもらいました。学校給食会とも一時緊張状態が生まれましたが、子どもたちにとって身近な給食づくりを目指す南国市の思いを貫きました。何かを始めるときには、最初から拍手だけがあるわけではなく、必ず大きなハードルがあると思います。

人に恵まれたことも大きかったと思います。 10 年間ともに歩んできた市長との信頼関係や、全国で栄養士から教頭に就任した第 1 号である甲藤(かっとう)さんら職員と一緒に乗り越えながら食育に取り組んできました。念願が叶い、平成 15 年度には月曜から金曜まで、地元中山間地域の棚田米だけを使った完全米飯給食が実現しました。学級ごとに家庭用炊飯器で炊き上げるこの米飯給食は子どもたちの圧倒的な支持を受け、食べ残しがなくなりました。ご飯が美味しいわけですから、当然おかずも食べてくれます。また、家庭で食や栄養の話が増えたことにより、保護者の関心も高くなるという波及効果もありました。

戦後の日本の教育は、子どもたちの優しい心情を育てるのに失敗し続けてきたのではないでしょうか。食文化についても、これだけ優れたお米という食材を、もっと大事にすべき時代が来ています。私は何か新しいことをしたわけではなく、昔に戻しただけだと思っています。さらに、環境教育、農育の観点から、もっと土に親しもうと「米づくり親子セミナー」を実施しています。この体験をしっかりさせていけば、間違いなく子どもたちはたくましく育つでしょうし、感謝の気持ちや生産の喜びを感じてくれると思います。

平成 17 年 9 月に「食のまちづくり宣言」をしました。学校給食から始めた食農教育への挑戦ですが、これから先は給食の領域を超えて、南国の食をブランド化するため、JAと連携した地元野菜の使用や有機栽培の試験導入を進めていきます。食育にゴールはありません。人間が生きている限り永遠のテーマであると思います。また新たなステージに向けて、これまでの実践を大事にしながら全国発信をして参ります。

パネルディスカッション

「学校で畑で地域で、子どもたちとつくる食育活動」

コーディネーター:食の自給ネットワーク代表・三田村雅人氏

【学校で】

札幌市立茨戸小学校PTA会長 天谷一男氏

農業体験を通して子どもたちに食の重要性を理解してもらおうと、行政や農業機関の協力を得て、学校の近くにある田んぼで、田植えから稲刈りまで一連の体験学習に取り組んでいます。さらに、親子が一緒に調理して食べる機会が重要と考え、お米の料理教室も加えています。 3 年経ちましたが、植えた稲が生長していくのを見ることで、ご飯を残さなくなるなど子どもたちが変わり、私自身も変わりました。今後は市全体にも農育の重要性を広めたいと思いますが、農家の協力をどう取り付け、継続していくかが課題です。横のつながりや組織づくりが重要だと思います。

【畑で】

元気村・夢の農村塾塾長 谷口保幸氏(深川市)

近隣市町の農業者や他業種の人たちも交えて農業体験の受け入れグループを作り、学校や旅行会社などを通して 1 戸につき 3 ~ 4 名の小・中・高校生が農業体験や地元と交流する取り組みをしています。作物や家畜の基本的な知識や食に対する価値観などを家庭で教えることが難しくなっている中で、子どもたちは、畑仕事などを通じて命の源である農業の現場から、命のつながりや心の大切さを発見することができます。これからも、農業の厳しさではなく楽しさを伝え、北海道から食を変えていくため様々な情報発信をしていきます。

【地域で】

NPO法人 北海道食の自給ネットワーク事務局長 大熊久美子氏

今年度、計 6 回実施した食育講座では、基本料理実習や生産現場などでの体験学習を行いました。中でも農場実習では「生きている」野菜の美味しさを実感し、昼食のカレーライスの豚肉が農場内で抱いた仔豚の大きくなったものと知るなど、子どもたちは命をいただくことの意味を悟ってくれました。はじめは食器の並べ方や持ち方もバラバラだった子どもたちが、体験を通して大きく成長し、さらに子どもに刺激を受けた親も意識が変わったという嬉しい報告もありました。今後も地域の大人たちが協力して食育に取り組む必要があると思います。

西森善郎氏

家庭では、就学前にお米を重視する日本型の食生活を日常化する食育をしておくことが一番重要です。給食では、地域でとれる食材の旬に合わせて献立を作るのが理想ですが、まずは栄養士さんに味方になってもらい、調理員さんにも理解してもらった上で市や町に協力をしてもらえば変わります。決してあきらめず、目標に向かって燃え続けることが大事だと思います。

食の自給フォーラム 2006 「食べることは生きること」

フォーラムのチラシ

日時 : 平成 18 年 2 月 18 日 (土) 13:00 ~
場所 : 札幌市教育文化会館 4 階 講堂 (札幌市中央区北 1 条西 13 丁目)
主催 : 北海道食の自給ネットワーク
参加費 : 500 円 (事前の申込みは不要です)
お問い合わせ : 電話  090-2818-5502 FAX 011-789-8890

フォーラムのご案内

今や家庭の食は、加工食品やインスタント食品などへの依存度が高まり、食事の形態もひとりで食べる孤食や家族が別々のメニューを食べる個食が増え、欠食も目立つようになってきました。こうした食の乱れは、子どもたちの心身に影響を及ぼし、近年、食育の必要性が叫ばれるようになってきました。

本フォーラムでは全国でも注目されている高知県南国市での食育の実践の報告を聞き、パネルディスカッションでは、道内各地でおこなわれている食育の取組を紹介します。農業現場で、学校で、地域で、子どもたちが変わっていく様子を伝えると共に、本当に必要な食育とは何かを考えます。

講師プロフィール

西森善郎 氏
昭和 9 年 1 月 29 日生
高知県南国市教育長、高知県市町村教育委員会連合会会長、全国市町村教育委員会連合会副会長
昭和 32 年より教壇に立ち、小学校校長を歴任した後、平成 8 年より現職につく。

「子どもたちにおいしい地元のお米を食べてほしい」との思いから、平成 9 年より地元中山間米使用の電気炊飯器給食を実施。現在、市内 14 の小学校・幼稚園に 264 台の電気炊飯器を導入しての完全米飯給食を実施。南国市の教育方針に「食育」を取り入れ、本年度は「食育のまちづくり条例」を制定。全国から視察が相次ぐ。

「与えられる給食から、自分たちで作り上げる給食へ。強い意志を持てば国も制度も変えられる」が持論の信念の人である。地産地消の学校給食により、日本型食文化の再生を願っている。

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