食の自給フォーラム 2005

「子どもたちが変わる! ~ある小学校の体験教育の記録~」

事務局 松本 啓佑

2005 年 2 月 12 日、札幌市教育文化会館で行われた「食の自給フォーラム」の模様をお伝えします。

今回の講師、千葉県我孫子市立我孫子第二小学校の岡田和一教頭は、大熊久美子事務局長が 2004 年 6 月に本の取材 (『いただきますからはじめよう-みんなの食育講座-』毎日新聞北海道支社編、寿郎社刊) のため同校を 3 日間取材したのがきっかけで、ぜひ北海道でも学校の取り組みを紹介していただこうとお招きしました。

フォーラムでははじめに、岡田教頭からスライドを使った同校の体験教育の紹介があった後、大熊事務局長との対談が行われました。会場には自給ネット会員 29 名をはじめ、教員など学校関係者、学生、市民の方など 70 余名の参加があり、それぞれが「生きた教育」の実践報告を熱心に聴き入っていました。

講演の要旨

動物や鳥との日常的なふれあい

私が教頭として赴任した平成 2 年に、当時の伊勢校長と 2 人で「学校らしい」環境作りをと、草取りや花壇作りを始めました。その中で子どもだけなく教員も体験ができていないことを痛感し、 PTA の役員の協力もあって飼育小屋などを作ったのが今日につながっています。現在、本校には鳥たちの飼育小屋「ふれあい王国」や、工作室の「ゆめひろば」、「じゃぶじゃぶ池」、山羊、ヒツジの「わくわく動物ランド」など子どもたちが飼育や遊びに利用する施設があります。毎朝、ガチョウがギャーギャー鳴く声や、釘を打つ音がガンガン聞こえます。子どもたちは学年ごとに鳥や山羊などを飼育したり、大工の棟梁を呼んで釘の打ち方やのこぎりの引き方を学んだりしています。

田んぼと畑の授業

米作りでは、春は種籾の選定から育苗、田起こし、代掻き、田植え、夏は草取り、肥料やり、秋は稲刈り、おだかけ (はさがけ) 、脱穀、籾摺り、精米と、「体験的」ではなく最初から最後まで本物の体験を、地域の「田んぼの先生」に協力してもらいながら行っています。とれたお米は、栄養士さんから栄養について教わり、おにぎりやせんべい、五平餅などを自分たちで作りながら玄米から何ができるかを勉強します。収穫祭では、 PTA も協力して子どもたちと共にもち作りをします。もちは全校児童とお世話になった地域の方たちに配ります。

最後には、米の種類や生産、貿易、農薬の問題についても学習し発表します。

畑ではトウモロコシを育て、生活科の中でポップコーンの味を研究したり、大豆を育てて豆腐屋さんを呼んで豆腐作りを学んだり、そば作りなどもします。畑の管理は大変ですが、自分が育てた食べ物は大切にする気持ちになりますし、食べるというのは子どもの本能に合っていて喜びます。子どもが勉強するには食べることをやっていればまず間違いないと感じています。

学校の行事と体験活動

林間学校や修学旅行では、観光バスは使わず電車に乗って現地集合させます。キャンプ場での食べ物も自分たちの食べたいものを作らせ、見学コースや体験活動も自ら計画させます。このように、子どもたちが全部計画して成し遂げると、大きな達成感を得て、自信をさらに深めることができます。卒業式も、小学校最後の学習発表の場として、自分たちで考えて作り上げています。

体験活動の意義

子どもは、遊びや生活、そして失敗の中から色々なことを学びます。体験活動は、知恵を育て、働く力、心も育てるということで、まさに生きる力を育みます。核家族化もあり、子どもが死というものに直面する機会が少ない中では動物を飼育する意味も大きいです。

近所付き合いが少なくなり、地域の教育力が落ちていることに対しては、学校が中心となり、皆の目で子どもたちを育てて欲しいと思います。

我々教員が変われば子どもも変わり、親も変わり、そして地域も変わるという気持ちで取り組んでいます。すぐには結果を求めず、子どもたちが大人になってから、一つでも役に立つだろうと信じて指導しています。

対談から

【大熊】
我孫子二小では、動物の飼育、田んぼと畑の授業という大きな 2 つの取り組みのほか、大工仕事や、自分たちで計画する林間学校など、とにかく子ども主体でさせています。それには、地域の先生と PTA という地域ぐるみの協力や、学校の先生たちの主体的な取り組みの 2 つが土台になっていますね。
【岡田】
本校は 116 年と非常に歴史があり、三代四代と卒業生が地域にいるため、 PTA の学校の行事に対する協力体制ができています。地域の先生は我孫子二小の卒業生がほとんどで、子どもや孫が通っているということで、「何でもいってよ」と声をかけてくれる人がたくさんいます。また保護者との「飲みニケーション」も大事にしています。
【大熊】
始めは動物や田んぼの泥が苦手だった子どもも、慣れていくと次第に動物や自然に対する思いやりの気持ちが育まれるようですね。また上級生が下級生の指導をしながら面倒を見るのは責任感も高まるなど、様々な効果がありますが、子どもたちは大きく変わりますか?
【岡田】
大きく何かが変わったかどうかは分かりませんが、やはり子どもたちが自信やリーダー性を身につけるようです。中学校に進学しても、色々な役職に立候補したりという話は聞きます。
【大熊】
自分で学んで力をつけさせる土台がある我孫子二小の教育には、人として生きていくための大事な要素が入っています。この学校が特別な条件に恵まれているわけではありません。教職員の強い意志と、負担を感じずに楽しみながら協力してくれる地域や PTA を巻き込んで取り組んでいる。条件ではなく、まずは人の意志が大事ですね。ぜひ皆さんの地域でも、全部は無理としても一つでも何かを始めていってもらいたいと思います。

我孫子二小の取り組みを詳しく知りたい方には、同校が編集した『「地域の先生」と創るにぎやか小学校』 (農文協、 1998 年) という本をご紹介します。


食の自給フォーラム 2005 「子どもたちが変わる! 」

フォーラムのチラシ

日時 : 平成 17 年 2 月 12 日 (土) 13:00 ~
場所 : 札幌市教育文化会館 4 階 講堂 (札幌市中央区北 1 条西 13 丁目)
主催 : 北海道食の自給ネットワーク
参加費 : 500 円 (事前の申込みは不要です)
お問い合わせ : 電話  090-2818-5502 FAX 011-789-8890

首都圏のベッドタウンにある千葉県我孫子市立我孫子第二小学校は、 1 年生から 6 年生まですべて栽培に関わる体験学習を取り入れ、生きた体験教育の実践校として、全国から注目されています。

「子どもは体験を通して知恵を学ぶ」という校長先生の考えから、 PTA や地域住民の協力を得て、各学年が動物の世話をし、米作りや野菜栽培を体験。つくり、育てる体験を通して、子どもたちは生きる力を身につけ、確実に変わっているといいます。

同校の岡田和一教頭をお招きし、北海道食の自給ネットワーク事務局長の大熊久美子さんが、対談形式で取組を紹介します。

畑や池、動物小屋があり、作物や動物に触れて学ぶユニークな取組は、これからの食や教育を考える上で、きっと参考になると思います。

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