『と畜場でアニマルウェルフェアを考える』

11月10日に29名が参加してと畜場でのアニマルウェルフェアについて学びました。
講師は帯広食肉衛生検査所に勤務する獣医で一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会 事務局の奥野 尚志氏 です。

奥野 尚志氏

奥野 尚志氏

「肉を食べる上で避けて通れない屠畜だが、そこに思いを致す人はいないと思われる。家畜は生産者の所からトラックやフェリーなどで屠畜場に運び込まれ、係留所で疾病の有無や抗生物質等の残留など健康状態をチェックする。係留所で平成21年に前日搬入された牛が死ぬという事故があった。高温のための脱水が一因と考えられ、飲水設備のないことに気づいた。昭和28年にできた『と畜場法施行令』には飲水設備の設置は義務付けられていないため、係留所にいる間(24時間以上になることもある)家畜は水が飲めない。平成6年のガイドラインでは係留所に飲水設備を設けるよう書かれているが、古い施設ではついていないところが多い。EUでは給餌・飲水施設を付けるべきという法律がある。また、対米輸出食肉を扱うと畜場には係留中の給水が義務付けられている。生産者に係留所の給水について聞いたところ、飲ませるべきと答えた生産者が多かったが、『北海道は夏でも涼しいから不要』『肉質に影響するから給水しないで』と応える生産者もいた。が、気温が低くても(6℃ほど)牛は水を飲みたがるし、給水すると歩留まりが良く、格付けへの影響もなかった。係留所での給水は牛だけでなく生産者にも良い影響を与えていた。

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トラックなどでの運送から屠畜場への搬入についてもストレスが肉質に影響する。興奮して血圧が上がると毛細血管が切れてシミになることがある。運搬状況がよくなくて傷(炎症)ができることもある。肉牛生産者や運送会社には『牛はきれいにして搬入してください』『削蹄してください』『愛情を持った取り扱いをしてください』などのお願いをしているが、ひどく汚い牛も運び込まれる。飼養管理だけでなく出荷からと畜までストレスを少なくすることが肉質にも良い影響を与える。と畜場でも家畜の習性、扱いをよく知り最期の瞬間まで命あるものとして配慮すべき。」
奥野氏は実例を示す多くの写真を使ってお話されました。とてもわかりやすく胸に迫るものがありました。

会場からの意見・質問では
「法律がないといったが、動物愛護法第2条で『給餌・給水しないといけない』と書かれている。また第41条2項で獣医師は虐待されている家畜がいたら知事に通告する義務があると書かれている。この法律をもとに給水設備の設置を求めることができる。」
「牛は1日にどのくらい水を飲むのかが解ると飲めない辛さが理解しやすい。」
「消費者が食の一部として屠畜場を見学すべき。。」
「初めてと畜場見た時はショックだったが見てよかった。消費者にも見てほしい。(生産者)」
「家畜福祉20数年なかなか進まない。大量生産して安いものを大量消費する経済を考え直さないないといけない。」
「食に関わるものは環境考えないといけない。」等の声が上がりました。
奥野氏からは帯広第2工場は見学できるので是非見てほしい。芝浦の屠畜場が改良されたのは「水も飲めなくてひどい」という消費者の声もあった。など消費者の奮起を促す言葉もありました。

参加者のアンケートでは
「南部曲屋的家畜との共生文化に日本の伝統的文化精神があった。日本文化の復権を望みます。AWのみならず全世界の経済システムの再考を!」
「現場の実態、実状をお聞きでき、大変考えさせられる勉強会でした。先生の必死な発表だったと感じとても感謝しています。」
「私は年に1回生産者を訪ねる生活クラブに入っています。スーパーで購入するよりやや高価ですが卵、お肉その他がどの地域で育ち、どのような生産者が大切に育てられているのかをいくらか知っています。なので自分なりに満たされて生きている動物、卵、牛乳を食べていると思っております。」
「今まで知らなかったことがわかり大変ショックを受けました。」
「と畜場でのアニマルウェルフェアは自分が多分こうなんだろうと思っていた通りの現場情報でした。と畜にかかわる人たちの地位向上は重要です。来年のオリンピックがアニマルウェルフェアにとって良い方向に進んでいくことを自分もしっかり考えたい!」
「食べるから水をあげないでいいではなく、命をいただくからこそ最後に水をあげてほしいと思います。」
「命をいただく大切さの中に、生かされる動物の尊厳を守ること。水を与え、苦しまず、と場の役割に期待します。」
「と畜場の現実を知る貴重な機会になりました。奥野さんのお話はもちろん、参加者の方々の色々な意見を聞くことができてよかったです。」等の声が寄せられました。

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