アニマルウェルフェアフォーラムを開催しました

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10月27日フォーラム「聞いて知ってアニマルウェルフェア!~今畜産が変わろうとしている」を北海道生活協同組合連合会と生活協同組合コープさっぽろとNPO法人北海道食の自給ネットワークの共催で開催し、65名が参加しました。

まず北海道生活協同組合連合会の平専務が主催者を代表して挨拶した後、帯広畜産大学畜産学部准教授で(一社)アニマルウェルフェア畜産協会代表理事の瀬尾哲也氏から家畜飼育の現状と問題点について話ました。

まず採卵鶏について、多くの養鶏場で使用されているバタリーケージは衛生的に管理できるものの、狭くて羽繕いや砂浴び、羽を伸ばしたり止まり木で寝るなど本来の鶏の行動が制限されEUでは禁止されている。狭い中でつつきあうことも多く、くちばしの先端を切るピークトリミングをするところもあるが、EUでは禁止している所が多い。EUでは2004年からオーガニック、放し飼い、平飼い、ケージ飼いを番号で卵に表示するようになり、価格が高くてもケージ飼いでないものが買われるようになってきている。平飼いの卵を全店に配置したコープさっぽろの取り組みは革新的で、購入する消費者が増えるといい。

豚について、多くが豚舎で集約的に飼育されていて、単調で刺激のない生活。特に分娩ストールは、子豚を踏みつぶさないように母豚を固定している所が多く、母豚は体の向きを変えることも子豚の世話をすることも出来ない。狭くて単調な生活から他の豚のしっぽをかじる「尾かじり」を防ぐため予め尻尾を切り落とす「断尾」はEUでは禁止されている。母豚の乳房を傷つけないよう子豚の犬歯を切る「歯切り」も日本では多く行われるが、EUでは歯の先をやすりで削るだけにしている。

肉牛については、放牧するとサシが入りにくく、青草のベータカロテンで脂肪が黄色くなり、消費者に支持されないためほとんど放牧されていないが、日本短角牛やアンガス牛で放牧する人がいる。

乳牛は1965年は1戸当たり平均3.4頭の飼育頭数が、2016年は北海道では1戸当たり平均121頭と大規模化が進んでいる。首を固定するつなぎ飼いは弱い牛もエサを食べられ、病気の牛を発見しやすい反面、牛は行動が著しく制限される。フリーストールという飼い方は動き回れるが、糞尿で床が汚れると足の病気になることもある。放牧でもぬかるみがひどいところで飼うのはNG。牛にやさしく接すると乳量が増えるという研究報告がある。北海道は放牧のイメージが強いが、年間通して放牧している牧場の乳が1か所でも使われていれば放牧の写真を牛乳のパッケージに使える表示基準のためと思われる。

アニマルウェルフェアは肉、乳、卵を利用するが、家畜も感覚を持った生き物だからできるだけストレスを抑えて飼育しようという考え方。良い環境で飼育して家畜が健康でいられれば薬剤や抗生物質の使用も減る。健康な家畜から健康な食材が得られる。人も健康なものを食べられる。「食」はとても大切だから、自分が良いと思うものを選んでほしい、と強いメッセージで話を終えました。

 

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次に株式会社坂根牧場の坂根遼太氏から話を聞きました。

子どもの頃から親の姿を見て酪農は大変そう、汚そうで嫌だ、人を笑顔にできる仕事に就きたいと思っていた。帯広農業高校では畑作を学んだ。ニュージーランドには語学研修に行き、酪農は全く見てこなかった。その後アメリカに農業研修に行き妻と知り合い酪農をする気になった。アニマルウェルフェア=放牧と思っている人が多いが、自分の所はフリーストールと雪のない時期放牧して150頭飼育している。放牧地が15ha、採草地が48haと十勝では平均的。牛が健康でなくなったのとゆとりが欲しくなり2000年から放牧を始めた。2014年チーズ工房を作り妻が加工をしている。AW認証を取ろうと思ったのは、加工したものを届ければ笑顔が見られるが、さらに幸せに、またより多くの人に価値を伝えられると考えたから。審査は厳しく5つの改善点を指摘された。1つ目は哺乳で、子牛にバケツで乳を与えていたのを哺乳瓶で与えるようにしたが、10分かけて吸わせるのが大変で哺乳瓶ホルダーを作った。2つ目は足の傷で、牛道が雨でグチャグチャになるのを何とかしようともろい石くずを入れた。3つ目は体の擦り傷で、首がストールに擦れて傷ができるので、スタンチョンの位置を10㎝上にあげ、前にも出した。バーも25㎝前に出し首に当たらずエサが食べられるようにした。4つ目は人間からの逃走で、「知らない人だから逃げるんでしょう!」と思ったが、なでるなど牛にやさしくしたら審査が通ってびっくりした。5つ目は配合飼料で、「配合飼料で乳量増えるのに!」と思いながら早刈りの草のラップサイレージなど年中草を与えるようにした。他にも足の悪い牛は早めに治療するとか水槽の掃除をマメにすると牛だけでなく人も気持ち良くなることに気づいた。牛や牛の環境に対する意識を皆が共通認識するようマニュアル化した。牛が健康であれば獣医にかかる回数も減りゆとりもできる。認証取ることで経営に誇りを持てる。意識の変化がメリットだが、乳量アップや作業の効率化など経済効果にもつながっている。酪農は毎日の仕事なので働く環境づくりが大切と思うが、アニマルウェルフェアという目標に向かって働く人の気持ちが1つになれた。AW審査項目は本来の生態に基づいているので意義がある。認証シールがついたことでアニマルウェルフェアを知ってもらえて、客の支持にもつながり、やりがいにもなっている。人と牛がもっと幸せになって、これからソフトクリームなど加工も増やし、将来の担い手も育てていきたい。


お二方の話に質問が多数あり、瀬尾先生に回答いただきました

Q 鶏のつつき合いはケージ飼いより平飼いで起きるのでは?
A ケージ飼いのつつき合いは多い。広くするとつつくの減る。
Q ケージ飼いの農家にはAWは負担ではないか?コスト面は?
A コストはかかるが卵の値段が上がる。EUではAWに補助金がでる。
Q 北海道は放牧のイメージ強いがつなぎ飼いどのくらいか?
A 北海道はフリーストールが増えてはいるが6~7割はつなぎ飼いと思う。
Q と畜場でAWの肉と一般の肉区別されるのか?
A オーガニックは区別されるがAWは区別ない。
Q AWとオーガニック、NON-GMどちらを重視したら?
A どれも大事。EUのオーガニックはAW含む(日本は別)。GMはまだよくわからない。何かあってからでは取り返しがつかない。
Q ロボットやAI、機械化についてどう考える?
A ほぼ自動で搾乳するロボットもあるが、ロボットを使うことの是非ではなく、きちんと飼われていればOK.
Q 認証取った農場どのくらい?北海道は?
A 15件で14件が北海道。
Q 認証制度乳製品以外のものはどうなっている?
A 肉牛、豚、採卵鶏も進めていくが時間がかかる。
Q TPPについて?
A TPPは農家にとってメリットないし入ってほしくなかった。安全・安心なものを作り、消費者が支持していく。なるべく自給すること大事と思う。
Q つなぎ飼いでもAW認証取れるか?
A 審査基準の8割クリアすればOKなので可能性はゼロではない。
坂根さんにも回答いただいきました。
Q 大樹町でAW増えているのか?収入は?
A 大樹町で認証取ったのは2件。経済効果ある気はするがはっきりした数字はつかんでいない。
Q 牛乳はどうやって販売している?
A 牛乳は販売していない。他の牛乳と混ざっている。
Q 今年天候のせいで牧草の質良くないようだが工夫は?
A 雨の前に収穫したので影響なかった。収穫する回数を増やした。


2人に質問しました。

消費者意識が変わることのほかにAW進めるにはどうしたらいい?
瀬尾「消費者の力は大きい。ぜひ関心持ってもらいたい。」
坂根「AWでないと嫁に行かないという女性が増えるとAWが進む。牛が暴れるとデッキブラシでたたいていた父を見てそれが普通と思い自分も牛をたたいていた。それを見た妻は『気持ち悪い。牛をたたいたら余計に暴れるよ』と言ったが、妻の言う通りだった。」
最後に牛を飼っていた生産者から坂根さんにエールが送られフォーラムは終了しました。

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